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その手をのばせ    ロクアレ


ロクアレ

10話から11冒頭

ナドレを晒してしまったことが余程奴のプライドを
傷つけたのだろう、ティエリア・アーデは作戦指揮官である
スメラギを責めることで自己を保とうとしていた。
そのどこか幼さを感じさせる態度をロックオンは苦笑と共に
こう評した。
「可愛いよなぁ~生真面目で、…他人に八つ当たりなんかしてさ」
「貴方にかかればティエリアも子供ね、ロックオン」
ミススメラギが声を立てて笑う、しかしその顔には隠しきれない
疲労と苦悩が映っていた。
(強がっていはいるが、この人の傷も相当だな…)
「まぁ、伊達に長くは生きてないんでね」
年の功って奴さと大げさに肩をすくめるてみせる。
「ずいぶん親父くさい言い方ね」
「ロックオンお前いくつ?」
調子を取り戻したらしいリヒテンダールが揚げ足をとる。
「まだ24だっつーの、いやもう直ぐ25だけど…」
それにきっちり突っ込みを入れることで、軽い笑いが生まれる。
いつもの明るさを取り戻したブリッジの連中に合わせるよう
に笑いながら、俺はひそかに拳を握った。
 
(なにやってんだ俺は)
 
ここよりも行かなきゃいけない場所があるだろう?
いまもあいつはひとり苦しんでいるというのに。
 
 
 
(でも俺は…無力だ)
 

 
ナドレ…もといヴァーチェに続き、キュリオスを回収し終わり、
トレミークルー達がやっと安堵の息を吐いた後、ロックオンはすぐさま
アレルヤの元に向かった。
 
ハロに率いられた整備ロボットたちを避けながら格納されたキュリオスに
近づく。モビルスーツから飛行形態に変形した状態のキュリオスに大きな
傷は見られない。
(アレルヤは無事そうだな)
最悪の事態は免れたようで俺は詰めていた息を吐く。
ただ、先端が不自然に焦げたGNシールドに首を傾げた。
探し人はまだ見当たらない。
コクピットに近づく。
「アレルヤ!大丈夫か?」
キュリオスを下から見上げるようにしてアレルヤを呼ぶ。
しかし答えはない。
(まさか中で…)
嫌なイメージが脳内で再生され、たまらず整備士の姿を探した。
「おやっさん!キュリオスのハッチを開けてくれ!」
アレルヤが出てこないんだ…!!!
ガンダムはその秘匿性から外部スイッチがない。
コクピットを開けられるのは各パイロットとパスワードを知っている人物だけである。
ナドレの整備に追われ、げんなりとした様子のイアンを引きずるようにして
キュリオスの前に立たせた。
「アレルヤが落ち着くまでそっとしておいたほうがいいじゃないか?」
安否はオペレーターの嬢ちゃんが確認してるみたいだし…
「早くしてくれ!!」
吼えるように叫んだ俺におやっさんはひるんだようだった。
「わかったよ…」
ったく、お前さんはたまに熱くなるな…
(口を動かすなら手を動かせろ!)
という台詞をなんとか飲み込んで俺はハッチが開くのを待った。
聞き慣れた稼動音がすると中に乗り込む。
デュナメス以外のガンダムに乗るのは初めてだったが、
キュリオスの内部はまったく違っていた。
操縦が難しいとされている可変型ゆえか複雑な装置が並んでいる。
「アレルヤ!無事か……!!!」
泣いているのか?
アレルヤは自分を抱くようにと震えていた。
その頬の周辺にはきらきらと光る水滴が確かにあった。
「アレルヤ…」
肩に触れようとした手は途中で止まった。
指が食い込むのではないかと思うほどきつく腕を握り、
かたかたと震えるアレルヤの様子はとてもロックオンが触れられる状態で
は無かった。
 
(……届かねぇ)
 
フェルトのことは誤解だとか…約束をやぶってすまなかったとか。
アレルヤが戻ってきたら言おうと思っていた言葉が
砂のようにこぼれ落ちる。
言いたくなければ言わなければいいなんて、
誰にでも暗い過去があるなんて
今のこいつを知っていればいいだなんて、
今まで俺はわかっている振りしていただけだと思い知らされる。
事実、震えるこいつに触れることもできないじゃないか。
 
「ロック、オン…?」
 
ぼんやりとこちらを向いたアレルヤは消え入りそうな声で
俺の名前をよんだ。
なにか言わなくてはいけないのに俺の唇は乾いてしまって動かない。
 
「アレルヤ無事だったか!」
背後からイアンの声がした。
アレルヤははっとした様に目を見開いた後、
もう一度だけ爪を立てて腕をほどいた。
「…えぇ…大丈夫、です」
(馬鹿野郎、無理に笑うんじゃねえよ)
ぎこちなく作られた笑顔が痛々しい。
「よかったな、ロックオン」
こいつお前さんが心配で俺に怒鳴ったりしてな、
そりゃあ怖かった、アレルヤにも見せてやりたかったぜ。
「ご心配をおかけしてすみません」
「いいってことよ」
「あなたにも、迷惑をかけてしまって…」
アレルヤの目線が俺に移る、それは先ほどまでの
虚ろな目線とは違い、いつものアレルヤの目だった。
(ちがう、そんな言葉のために俺は)
「アレル「なんだか、疲れてしまって…部屋に戻りますね」
「心配してくださってありがとうございます」
矢継ぎ早に告げてアレルヤは唇をきゅっと結んだ。
 
 


そうしてアレルヤは逃げるように自室に閉じこもった。
 
 
 
 
(そうさ、やつあたりなんてかわいいもんじゃねぇか)
 
ぶつかってくることでこちらは慰めるなり、叱咤するなり、
動けるのである。
 
 
(でもあいつはひとりで全部抱えこんでる)
 
まるで海底に潜む貝にように心を閉ざして、
誰の手を借りることもせず自己のなかで自問自答を
繰り返しているのだろう。
 

「ああアレルヤ…」
 


どうかその手を伸ばしてくれないか
そうすれば俺は今度こそお前を抱きしめることができるから
きつく抱くことができるから
 
 
 
その手をのばせ





+ + + + + + + + + +


ブリッジで話してる暇があるならアレルヤを慰めてくれぇ!!と思った
ロクアレニストは自分だけじゃないはず…(笑)


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